交通事故

外貌醜状の後遺障害等級認定手続・示談交渉

交通事故による傷跡(手術によるものを含む)が残ってしまったとき、原則として後遺障害等級認定手続で後遺障害に当たると認定されることで、治療費などとは別に損害賠償金を請求できるようになります。

後遺障害には「等級」と呼ばれるランク付けがあり、後遺障害慰謝料や逸失利益などの損害賠償金に影響を与えます。

傷跡に関する後遺障害の中でも、顔など人目につきやすいところの傷跡は「外貌醜状」と呼ばれ、手足などと比べると高い等級が定められています。

もっとも、どんな傷跡か次第で等級は異なり、その基準は分かりにくいところがあります。

後遺障害等級認定手続上も、書面審査が原則なのですが、例外的に面談が求められ、傷跡を実際に確認されます。

なにより、認定を受けられたとしても保険会社との示談交渉が難航してしまうことがあるのです。

ここでは、外貌醜状の後遺障害等級認定手続の基本を説明します。

1.外貌醜状とは

「外貌」とは顔や頭、首などを指します。
日常的に露出している体の中でも、特に他人に見られがちで隠しにくい部分といえるからです。

そして「醜状」とは「人目につく傷跡」のことです。

交通事故でできた「裂傷(切り傷)」、「擦過傷(擦り傷)」などの傷跡だけでなく、手術でできてしまった傷跡も含みます。交通事故が原因で生じたことに変わりはないからです。

2.外貌醜状の後遺障害等級認定の条件

傷跡が残ったとしても後遺障害等級認定手続で後遺障害の等級に当たると認定されなければ、後遺障害に関する損害賠償金は原則として請求できません。

外貌醜状と認定されるためには、以下のような条件を満たすことが必要です。

  • 傷跡が交通事故により生じたこと(因果関係)
  • これ以上治療することはできず傷跡が残り続けると医学的に認められること(永久残存性)
  • 傷跡の内容・程度が制度上定められた等級に当たるほどひどいものであること

(1) 事故との因果関係

まず、交通事故が原因で傷跡が残ってしまったと医学的に証明することが必要です。

交通事故による物理的な打撃が直接の原因でなくとも、手術によりできた傷跡も交通事故で負傷しなければ手術をすることはなかったのですから、因果関係が認められる可能性はあります。

一方、交通事故の前にもとから傷跡があった、あるいは交通事故のあとに事故とは関連のないケガをして傷跡が残ったという場合には因果関係は認められません。

被害者様にとっては当然のことかもしれませんが、審査ではそのような疑いをもたれないよう、以下のような証拠を残す必要があります。

  • 医師の診察では事故前に傷跡が残った部分についてケガしたことはなかったとはっきりと述べる
  • 傷跡の写真を撮る
  • 交通事故が原因による傷跡だと診断書に明記してもらう

(2) 永久残存性がある

傷跡がそれ以上小さくならず、一生残り続けると認められることが必要です。

後遺障害等級認定の申請が可能となる時期は、治療しても回復が見込めなくなった「症状固定」の時以降。審査対象となる傷跡は症状固定時のものです。

傷跡の大きさは、外貌醜状の等級基準で主な判断要素の一つとなっていますが、キズは治療に伴い小さくなっていくものです。

事故直後あるいは手術直後にできたばかりの傷跡の大きさをこれから説明する等級基準に当てはめて期待を持ちすぎるのは禁物です。

傷跡の内容・程度と等級の関係については項目を改めて説明しましょう。

3.外貌醜状の後遺障害等級の基準

後遺障害の等級は、損害賠償金の中でも特に金額が大きくなりやすい「後遺障害慰謝料」「逸失利益」に大きな影響を与えます。

  • 後遺障害慰謝料:傷跡が残ったことに対する精神的苦痛についての損害賠償金です。等級に応じて金額の目安が決まっています。
  • 逸失利益:傷跡が残ったことにより将来手に入れられるはずだったのに手に入れられなくなったお金です。算出方法は、おおざっぱに言うと年収×労働能力喪失率×労働能力喪失期間で計算されます。

どのような後遺障害がどの等級に当たるかは労働者災害補償保険(労災保険)制度で定められていて、後遺障害等級認定手続は労災保険制度を参考にしています(完全に一致しているわけではありません)。

外貌醜状の認定基準は「相当程度の醜状」などとてもあいまいですが、もう少し具体的な基準も定められています。

それぞれの等級、認定基準、そして後遺障害慰謝料や労働能力喪失率の目安を表にしました。

等級

認定基準

具体的な基準

慰謝料
(弁護士基準)

労働能力喪失率

7級

外貌に著しい醜状を残すもの

・頭部の、てのひら大(指を除いた部分)以上の瘢痕

または

・頭蓋骨の、てのひら大以上の欠損

1000万円

56%

顔面部の、

・鶏卵大面以上の瘢痕

または

10円銅貨大以上の組織陥没

頸部の、てのひら大以上の瘢痕

9級

外貌に相当程度の醜状を残すもの

顔面部の、長さ5センチメートル以上の線状痕

690万円

35%

12級

外貌に醜状を残すもの

・頭部の、鶏卵大面以上の瘢痕

または

・頭蓋骨の、鶏卵大面以上の欠損

290万円

14%

顔面部の、

・10円銅貨大以上の瘢痕

または

・長さ3センチメートル以上の線状痕

頸部の、鶏卵大面以上の瘢痕

※①具体的な基準については、分かりやすくするために制度上規定されている文章の表現を変えています。
※②2020年4月1日より前の事故の場合、自賠責基準の慰謝料の金額は多少異なる可能性があります。

4.外貌醜状の後遺障害等級認定手続

上記の基準表にある具体化された基準でも、まだあいまいさが残ります。
そのため、外貌醜状の後遺障害等級認定手続では、他の後遺障害と異なり面談が行われています。

(1) 通常は書面審査

後遺障害等級認定手続は書類だけで認定条件や等級を判断する書面審査主義が大原則です。

審査機関である損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所は、独自の医学的な検査や診察を行わず、提出された検査結果や診断書などの必要書類の記載内容だけを証拠に審査・認定を行います。

その例外が外貌醜状における傷跡の確認です。

(2) 傷跡確認のための面接

先ほどの等級表のとおり、外貌醜状の後遺障害等級は「どこに、どれくらいの大きさの、どのような傷跡が残ったのか」によって大きく変わります。
傷跡の場所、大きさ、性質によって、被害者様の容姿にもたらす悪影響は異なるからです。

逆に言えば、3つの要素を総合的に判断しなければ外貌醜状の程度は判断がつきにくいと言えます。

基準の解釈にしても、髪の毛や眉毛で隠れた部分は考慮しない・複数の傷跡が隣り合っているときは、その大きさを合わせて判断できるなど、さらに細かなルールがあります。
なにより、「容姿への悪影響」は実際に観察して見なければわからないものです。

そこで、外貌醜状における傷跡の内容・程度の確認については、書面だけでなく実際に被害者様が審査機関に出向き、面接で傷跡を確認することになっています。

面接では面接官の主観的な判断・思い込みが入り込んでしまうおそれがあります。事前に弁護士に相談して助言を受けておきましょう。

5.外貌醜状の示談交渉を弁護士に依頼するメリット

外貌醜状では、特に逸失利益に関して任意保険会社と激しい争いになりやすいです。

逸失利益は基本的に収入、特に仕事に関して後遺障害が悪影響を与えるために認められる損害賠償金です。
外貌醜状はモデルなど容姿を用いた職業に就いているなど特別な事情がある場合はともかく、仕事に直接悪影響を及ぼすといいにくいため、逸失利益の請求が難しいのです。

加害者側の任意保険会社は支払う保険金を減らすために、被害者様の個別具体的な事情を理由にして逸失利益の支払いを渋りやすく、外貌醜状では全く支払おうとしないこともあり得ます。

外貌醜状では、弁護士に任意保険会社との示談交渉を依頼するメリットは大きいと言えます。

被害者様が示談交渉を弁護士に依頼すると、任意保険会社は裁判となり手間や費用がかかること、裁判基準による高額の損害賠償金が判決で認められてしまうことなどを避けるために、後遺障害慰謝料の増額や逸失利益の支払いを認める傾向があります。

外貌醜状に関しては少なくとも後遺障害慰謝料は大きく争われにくいでしょう。逸失利益を補うために後遺障害慰謝料を増額する意義は十分にあります。

なお、裁判所は逸失利益が認められないことを考慮して、後遺障害慰謝料を相場より上乗せして認めることがあります。

しかし、示談交渉を打ち切って裁判にするかは弁護士と慎重に検討してください。
被害者様ご自身の事情によっては、裁判所が十分な損害賠償金をみとめないおそれがあります。

6.まとめ

外貌醜状の後遺障害等級認定手続、損害賠償金請求では、あいまいな基準・面接による等級の認定・交渉での逸失利益など、専門的な知識と経験が要求される問題が多くあります。

お悩みの方は、お早めに弁護士にご相談ください。

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