破産の債権者申立てとは?|自己破産と何が違うのか
「自己破産」と言えば、借金問題に苦しむ債務者自身が自ら申立てることをイメージされる方が多いでしょう。
実際、裁判所への破産の申立てのほとんどは、債務者本人による自己破産の申立てです。
ですが、事案によっては、債権回収会社等の債権者が、債務者の破産を申し立てることもあります。
つまり、「債務の支払いを怠っていたら、ある日突然債権者から破産手続きが申立てられてしまった」ということもあり得るのです。
今回は、債権者による破産の申立てはどのような場合に行われるのか、自己破産の場合との違いなどにつき解説します。
このコラムの目次
1.破産の債権者申立てとは
破産手続は、裁判所の決定により開始します。裁判所が職権で破産開始決定を出すことはなく、破産の申立てがあって初めて決定が出ます(破産法15条1項)。
そして、破産の申立てをすることができるのは、「債権者または債務者」と定められています(破産法18条1項)。
破産の申立てのほとんどは、債務者による自己破産の申立てです。債権者による破産申立ては、件数としてはあまり多くありません。
債権者による破産申立てがなされるのは、債務者にそれなりの財産があり破産手続による配当が期待できる場合や、債務者による財産隠しが疑われる場合、債務者の対応があまりに不誠実な場合、税務上の理由による場合などが多いと言えます。
2.債権者申立てによる破産と自己破産の違い
(1) 予納金について
破産手続開始の申立てをするときは、申立人は、破産手続の費用として裁判所の定める金額を予納しなければなりません(破産法22条1項)。
予納金を納付するのは申立人ですから、自己破産の場合は債務者が納付しますが、債権者申立ての場合は申立てをする債権者が納付することになります。
予納金の負担額は、債務者の負債総額により決まります。
裁判所によっても異なりますが、たとえば東京地裁における通常管財の予納金は次のようになっています。
負債総額 |
自然人 |
法人 |
---|---|---|
5000万円未満 |
50万円 |
70万円 |
5000万円以上1億円未満 |
80万円 |
100万円 |
1億円以上5億円未満 |
150万円 |
200万円 |
5億円以上10億円未満 |
250万円 |
300万円 |
10億円以上50億円未満 |
400万円 |
|
50億円以上100億円未満 |
500万円 |
|
100億円以上は省略 |
省略 |
この予納金は、破産管財人が管財業務を行っていくための実費や報酬となります。
債務者が納付した予納金は返還されることはありませんが、債権者が納付した予納金は、申立て後に形成された破産財団(破産管財人が管理・処分権限を有し、債権者への配当にあてられるべき破産者の財産の総体)で破産手続を遂行していける目途がたてば、返還してもらえます。
ただし、必ずしも十分な破産財団が形成されるとはかぎりませんから、予納金を返還してもらえない可能性もあります。
なお、破産の申立ての際には、予納金の納付の他に、申立手数料、予納郵券、官報公告費といった費用も必要となります。
(2) 破産手続開始決定までの違い
債権者による破産申立ての場合には、申立時に、債権者が有する債権の存在及び破産手続開始の原因となる事実についての疎明が必要となります(破産法18条2項)。
なお、「疎明」とは、裁判官がある事実の存否について一応確からしいという心証を得た状態のことを言います。
債権の疎明
債務者に対する債権を有していなければ、そもそも債権者として破産の申立てをする権利がありません。ですから、債権の存在を疎明する必要があるのです。
ただ、債権の存在を明らかにすればよいので、債務名義の取得までは必要とはされていません。
破産手続開始原因の疎明
破産手続を開始するには、債務者に破産手続開始原因がなければなりません。
破産手続開始原因は、自然人の場合は支払不能、法人の場合は支払不能または債務超過です(破産法15条、16条)。
債務者自身が申立てをする場合、通常、申立人である債務者は自身の債務や資産について把握していますし、細かいことまで把握していない場合でも、債務者から事情を聴取した代理人弁護士が債務調査や資産調査をすることにより、詳細を把握することができます。
しかし、債権者が申立てをする場合は、債務者からの事情聴取や資料提出などは期待できず、債務者の債務や資産を把握するのが容易ではありません。
ですが、債権者による濫用的な破産申立てを防ぐ目的で、債務者の負債及び資産についての疎明が必要とされているのです。
(3) 破産手続開始決定後の違い
破産手続開始決定後の手続は、自己破産の場合でも、債権者申立ての場合でも基本的に変わりません。
ですが、債権者申立ての場合は、申立ての時点で債務者の債務や資産状況が十分調査されていないことが通常であり、破産手続が開始された後に破産管財人の調査により段々と明らかにされていきます。
しかも、債務者に審尋して説明を求めても協力が得にくいため、調査が難航することが少なくありません。
そのため、自己破産の場合よりも破産管財人の調査に時間を要することになり、審理が長期化する傾向があります。
3.債権者申立てのメリット・デメリット
では、債権者申立てのメリット・デメリットとしてはどのようなものがあるのでしょうか。
(1) 債務者にとってのメリット・デメリット
債務者にとってのメリットとしては、予納金は債権者が準備するので、破産するにあたり予納金の準備が不要という点が考えられます。
他方、債務者にとってのデメリットとしては、債権者の申立てにより強制的に破産させられてしまうことになるというのが一番大きなデメリットでしょう。
仮に「いずれ債務整理をする」ことを考えていたとしても、その時期を選ぶこともできなくなってしまいます。
(2) 債権者にとってのメリット・デメリット
債権者にとってのメリットとしては、破産の場合は債務者の全ての資産が配当の対象となり、破産管財人による資産の調査も行われるので、場合よっては個々の財産を差し押さえて強制執行をするより多く回収できる可能性があるという点が考えられます。
他方、債権者にとってのデメリットとしては、先述のように、申立てにあたって債権や破産手続開始原因の疎明をしなければならず、時間や労力を費やさなければならないということが挙げられます。
そのため、債権者による破産申立てのケースでは、破産手続きの終結まで多大な時間を要したり、費用がかさんだりするということがあります。
また、上記のように、破産手続きの利用にあたって多額の予納金も準備しなければならず、申立て後にそれが全額返ってくる保証もないということも大きなデメリットとなります。
4.破産の債権者申立て前に弁護士に相談を
今回は、破産の債権者申立てにつき解説しました。
債権者申立てによる破産は、件数自体はあまり多くありませんが、債権者に対し不誠実な対応を続けていたりしますと、自分の意思にかかわらず破産させられてしまうというリスクがあることはご理解いただけたかと思います。
借金問題でお悩みがありましたら、放置したりせず、できるだけ早く弁護士にご相談ください。早期にご相談いただくことで、デメリットを少なくできる可能性が高まります。
泉総合法律事務所では、債務整理のご相談については何度でも無料でお受けしておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください
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