高次脳機能障害に気付いてからの後遺障害等級認定準備
家族が交通事故に遭った後、物忘れが激しくなったり、すぐに物を落とすようになったり、あげく周囲に八つ当たりするようになってしまったなら、高次脳機能障害が生じてしまっているおそれがあります。
高次脳機能障害は人が人らしく生きるために必要な行動力や計画性を損なわせ、性格を自己中心的で幼稚なものに変えてしまうことがあります。
障害が後遺症として残ってしまうと、被害者様やその周囲の方々に生じる苦痛は大きいものです。
しかし、充分な損害賠償請求を受けるためには、障害に気付いたご家族が早くから準備をする必要がとても高いのです。
ここでは、被害者様が高次脳機能障害となってしまっているおそれがあることに気付いたご家族が、後遺症の損害賠償請求に必要となる後遺障害等級認定のために、どのような準備をしていけば良いのかを説明します。
このコラムの目次
1.高次脳機能障害とは
高次脳機能障害は、以下のような障害をもたらします。
- 認知能力:記憶力や判断力の低下
- 行動能力:計画性や注意力、集中力の低下
- 人格:協調性や衝動のコントロール
そのため、事故後は「以前にはなかった」「不自然な」「どこかおかしい」症状が被害者様に生じるのです。
例えば、「自分の誕生日を忘れている」「話が回りくどいうえに同じことを何度も話す」「食事でご飯をこぼし、飲み物が入ったコップを何度も落とす」「家族や看護師にわがままを押し付け、当たり散らす」などです。
障害が後遺症として残ってしまえば、普段の生活や仕事など、日常生活でトラブルが続出し、他人ともうまく付き合えなくなってしまうおそれがあります。
交通事故により後遺症が残ったとき、保険会社とは異なる中立的な審査機関が行う「後遺障害等級認定手続」で「後遺障害」の等級に当たると認定されれば、治療中の治療費や慰謝料などとは別に、治療が終わったあとの後遺症による損害の賠償請求ができるようになります。
逆に言えば、医師から後遺症が残ったと言われたとしても、認定されなければ後遺症の損害賠償請求は原則できません。
しかも、高次脳機能障害の後遺障害等級認定は、症状や原因を証明することがとても難しい障害です。
認定手続は書類だけで行われる書面審査となっています。
そのため、検査結果や診断書などの書類が重要な証拠となるのですが、医師は被害者様の高次脳機能障害に気付くことすらできないこともあるのです。
被害者様の高次脳機能障害の症状にすぐに気付くことができるのは、事故前の被害者様のことをよく知るご家族です。
症状に気付いたらすぐに医師に伝えることが何よりも大切なのです。
[参考記事]
高次脳機能障害の後遺障害で医師との連携が重要な理由
2.高次脳機能障害の治療中の注意点
(1) 被害者様の症状をメモする
事故前には無かった言動や、生活リズムの乱れ・問題行動・周囲の助けが必要となったことなどを、周囲の状況・他人との関係・時間の流れを意識した「エピソード」形式でメモをしておくと、後遺障害認定においての説得力が増します。
メモは、「日常生活状況報告書」というご家族など周囲の方々が被害者様の症状を審査機関に報告する書類の下書きとなります。
(2) 具体的な症状を正確に医師に説明する
具体的な症状を正確に医師に説明し続けることで、審査を受けられる可能性を高め、また、認定されなくなるリスクを下げられるでしょう。
高次脳機能障害の後遺障害等級認定では、「経過診断書」の記載内容次第で審査を受けられるかが変わってくることがあります。
経過診断書は、毎月医師が作成している診断書です。
審査の判断でも、経過診断書の記載内容が日常生活状況報告書とあっているか、症状の推移が不自然(たとえば短期間で大きく回復と悪化を繰り返しているなど)になっていないかが確認されます。
(3) 画像検査の実施をお願いする
医師に症状を伝えると同時に、MRIによる精密画像検査を定期的に実施するようお願いしてください。
画像検査結果は、「交通事故で脳神経が損傷したことが原因で高次脳機能障害になった」ことの重要な証拠となる可能性があります。
事故直後の意識障害の重さや時間も脳損傷の証拠になることがあります。
しかし、基本的に認定では様々な事情が総合考慮されます。画像検査で脳損傷を明らかにできれば認定では大きなプラス材料となります。
ところが、画像検査でも異常が簡単に見つかるとは限りません。事故直後に検査しなければわからないこともあります。
事故直後から何か月も定期的に検査をし続けて、脳の萎縮や脳にある隙間「脳室」が広がっていることが分かって初めて脳が損傷していると言えることもあるのです。
事故直後、医師は治療のためにCT検査を行っているでしょう。
ですが、証拠の作成のためには、より精密な検査であるMRI検査が必要です。
できる限り早くにMRI検査を行い、異常が無くても定期的に検査をし続けてもらうよう医師にお願いしてください。
(4) 知能テストを実施する
知能テストは、高次脳機能の低下そのものを測定できますが、信頼性はさほど高くありません。
知能テストの信頼性を高めるには、被害者様の症状に応じて適切な知能テストを定期的に行う必要があります。
医師が被害者様の症状に応じた的確な知能テストを行うためにも、医師への説明は必須です。
3.治療終了後の申請準備
リハビリなどの治療を続けても症状が良くならず、これ以上回復しなくなってしまうことを「症状固定」と言います。
症状固定のときに残ってしまった症状が後遺症です。
後遺障害等級認定手続では、症状固定のときの症状をもとに審査が行われます(手続の申請も症状固定後にできるようになります)。
申請方法には、誰が必要書類や証拠の収集・作成をするのかが異なる二つの方法があります。
- 「事前認定」申請手続を加害者側の保険会社が代わりに行うもの
- 「被害者請求」被害者様やそのご家族が資料収集や申請手続きを行うもの
高次脳機能障害では被害者請求をすべきでしょう。
繰り返しますが、高次脳機能障害は認定がとても難しいものです。被害者請求を利用して、積極的に有利な証拠を提出すべきです。
下記の症状固定後に準備が必要となる書類・証拠については、弁護士に相談・依頼して助言を受けましょう。
集めるべき証拠が分からなければ被害者請求のメリットを活かせないからです。
[参考記事]
被害者請求と事前認定|交通事故の後遺障害認定の2つの方法
(1) 日常生活状況報告書
記録していた症状のメモをまとめ上げます。
審査機関は「日常生活状況報告」と言う題名の書式を用意していますが、自由記入欄が狭いので、別紙を添付してください。
どのようなことを書けばよいのか、おおまかなところは、上記書式の内容が一番の参考になります。
被害者様が事故前と症状固定後で「どのようなことについて」「どんな風に」「どれだけ変わってしまったのか」、具体的なエピソードを盛り込んでください。
症状固定後の被害者様の状況によっては、職場の方や学校の担任にも被害者様の症状について報告書を作成してもらいます。
(2) 後遺障害診断書
後遺障害診断書は後遺障害等級認定手続専用の診断書で、認定を左右する最も重要な書類です。
後遺障害診断書で高次脳機能障害と診断してもらえれば、高次脳機能障害として後遺障害等級認定の審査を受けられます。
診断だけでなく、症状の内容や程度、推移・治療の経過・各種検査結果とその意味・症状の回復の見込みなど、後遺障害の認定、等級の認定に大きな影響を与えるものばかりです。
弁護士から後遺障害診断書についてアドバイスを受けたうえで、医師に作成を依頼してください。微妙なニュアンスの違いが、認定に影響を与えてしまう可能性があります。
(3) 神経系統の障害に関する医学的意見
医師が被害者様の高次脳機能障害の症状を記載する意見書です。
これまで何度もお伝えした通り、医師は被害者様の症状を正確に把握することが難しいため、何もしなければ意見書の内容が不正確になってしまうおそれがあります。
医師に作成を依頼する際、日常生活状況報告書を見せながら丁寧に症状を説明してください。
4.まとめ
高次脳機能障害は被害者様の社会生活に大きな悪影響を及ぼすため、後遺症の損害賠償請求ができるかどうかはとても重要です。
しかし、その後遺障害等級認定手続では、特殊な認定システムにより審査自体が受けられないこともあります。
また、審査されたとしても、症状があいまいで明らかな証拠を手に入れにくいため、適切な等級認定を受けることは難しいのです。
実際にどうすればいいのかわからなければ、まずは弁護士に相談しましょう。
被害者様の実情に応じて、証拠の集め方や後遺障害等級認定手続の細かな流れ、関係者と話すときの注意点についてアドバイスを受けられます。
後遺障害等級認定の申請では、弁護士に依頼して被害者請求をしましょう。
認定を受けた後の保険会社との示談交渉では、弁護士に依頼することで賠償金額の目安が上がる可能性があります。
しかし、認定されなかった、認定された等級が本来認定されるはずのものより低ければ、適切な示談金を受け取れないおそれが生じてしまいます。
弁護士への早めのご相談をお勧めいたします。
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