先物取引やFXで作った借金でも自己破産できるの?
「先物取引やFXで失敗して、一気に多額の借金を作ってしまった」として、債務整理の相談にお越しになる方は一定数いらっしゃいます。
「ギャンブルが原因の借金は破産出来ない」という話は、ネットの記事などでよく見かけられるようで、それと同様に、先物取引やFXといった投資が原因の借金も自己破産は無理ではないかと思って相談に来られる方も少なくありません。
ですが、現実は違います。たとえ先物取引やFX等が原因で借金を作ってしまった場合でも、しっかりと反省をして、破産手続に真摯に協力すれば、自己破産が認められる可能性があります。
この記事では、先物取引やFXに失敗して作ってしまった借金を自己破産で解決する方法について解説します。
このコラムの目次
1.破産手続と免責手続
日常生活の中で、「ギャンブルが原因の借金は破産出来ない」といった話を聞いたことがある方も多いでしょう。
ですが、これは少々誤解を招く言い方になってしまっています。
これには、自己破産の手続が、「破産手続」と「免責手続」の2つの手続に分かれていることが関係してきます。
(1) 破産手続
まず、「破産手続」とは、債務(借金)を返済できなくなった場合に、債務者(破産者)の財産を金銭に換えて債権者に公平に配当して支払い、債務を清算する手続です。
もっとも、債務者が殆ど財産を持っていない場合には、この破産手続は、手続開始と同時に終了します。
破産手続は、破産手続開始決定により始まりますが、①破産手続開始原因があり、②破産障害事由がなく、③適法な破産手続開始の申立てがあれば、裁判所は破産手続開始決定を出します。
①破産手続開始原因とは、債務者が「支払不能(=債務者が、支払能力を欠くために、弁済期にある債務について、客観的にみて、一般的かつ継続的に弁済することができない状態)の状態であることであり、②破産障害事由とは、「それがあると破産手続を始められなくなる事由」のことで、例えば、必要な予納金を納められなかったり、同じ債務者について他の倒産手続が申立てられたりした場合等がこれに当たります。
つまり、ギャンブルが原因の借金かどうかというのは、破産手続には関係がありません。
上記の①〜③の要件を満たせば、「破産手続」は可能です。
(2) 免責手続
ギャンブルが原因の借金であることが問題となってくるのは、次の「免責手続」との関係です。
「免責手続」とは、裁判所が破産者を免責(債務の支払いを免除すること)させてよいかどうかを判断し、免責許可あるいは不許可の決定をする手続です。
上記で説明したとおり、破産手続は、あくまで「債務を清算する手続」であって、債務を法的に消滅させる手続ではありません。
ですから、破産手続が終了しても(財産を債権者に配当し尽くしたとしても)、このままでは、債務者には清算後に残った債務の支払義務が残っています。
そのため、債務者が法的に残債務の支払いを免れるためには、もう1つの「免責手続」で、裁判所から免責許可決定を得る必要があるのです。
ですが、借金の原因がギャンブルの場合には、免責が不許可になってしまう可能性があります。
なぜかと言いますと、破産法には、次に説明する「免責不許可事由」という決まりがあるからです。
2.自己破産の免責不許可事由
(1) 免責不許可事由とは
破産法では、「免責不許可事由」というものが定められており、その項目に該当する場合には、原則として免責が不許可となってしまいます。
そして、この免責不許可事由の一つとして、「浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。」が挙げられています(破産法252条1項4号)。
「浪費」は、簡単に言いますと、無駄遣いをすることで、収入に見合わない高級品の購入などがこれにあたります。
「賭博」は、典型的なギャンブルで、競馬、競輪、パチンコなどがこれにあたります。
「射幸行為」は、耳慣れない用語ですが、偶然に得られる成功や利益を当てにする行為のことで、先物取引やFX、宝くじなどが、これにあたります。
ただし、浪費、賭博、射幸行為があったからといって、直ちに免責不許可事由にあたるということではなく、それらの行為をしたことによって、「著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担した」場合に、免責不許可事由に該当することになります。
(2) 先物取引やFXの危険性
先物取引やFXをやっていても、収入とバランスの取れた小遣いの範囲内でやっているのであれば、問題はありません。
ですが、先物取引やFXなどの投機性が高い取引は、大きな利益を生む可能性がある一方で、一挙に膨大な損失を生むリスクも大きいものです。
利益を得られれば、次はもっと大きな利益が得られるかもしれないと期待してさらに多くの資金をつぎ込み、損失が出れば、次こそは損失を取り戻そうと意気込んで資金を投入してしまい、どんどんのめり込んでいってしまうケースが少なくありません。
実際に、自己破産などの債務整理をしなければならないような状況になっている方の多くは、収入とバランスの取れた小遣いの範囲内で先物取引やFXをやっていたというレベルではなく、過大に資金をつぎ込んでしまい、とても返しきれないような多くの債務を抱えてしまっているケースです。
こうなると、先物取引やFXにより「著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担した」と言えるため、法律上の免責不許可事由に該当してしまいます。
3.裁量免責の可能性
上記で説明したように、先物取引やFXなどに失敗したことで多額の借金を作ってしまうと、法律上は、自己破産をしても免責を得ることは出来ないのが原則です。
ですが、絶対に免責許可決定が得られないというわけではありません。「原則認められない」ということは、裏を返せば、例外的に認められるケースもあるということです。その例外に当たるのは、次に説明する裁量免責制度です。
(1) 裁量免責とは
破産法252条2項では、「裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。」としています。
つまり、免責不許可事由に該当する場合であっても、裁判所の裁量(その事件を担当する裁判官の判断)で特別に免責を受けさせることが出来るものとされています。
これを「裁量免責」と言います。
自己破産の申立てをする人の中には、免責不許可事由が存在する人が決して少なくないのですが、たとえ免責不許可事由があっても、この裁量免責によって、最終的に免責許可決定を得ている人が多くいる、というのが実際のところです。
ただし、本来は免責不許可とすべき人について、裁量で特別に免責を認めるか否かという判断を迫られる裁判所としては、その人の申立書の言い分だけを材料に決定を出す訳にはいきません。
そのため、免責不許可事由に該当するところから、裁量免責を目指す破産事件に関しては、管財事件として処理されることになり、管財人のつかない同時廃止事件と比べて、手続面・費用面での負担が重くなることは避けられません。
(2) 裁量免責で免責許可決定を得るには
裁量免責には、明確な許可・不許可の基準がある訳ではなく、破産管財人から報告される調査結果などをもとに、裁判所が諸般の事情を総合的に考慮して免責するかどうするかを決めます。
とはいえ、何の基準もないわけではなく、以下のような点が重要な考慮要素となると言われています。
- 免責不許可事由の内容・程度
- きちんと反省しているかどうか
- 経済的更生の可能性の有無
- 破産手続への協力の程度
債務者の方としては、借金及びその原因となった先物取引やFXについて深く反省し、二度と手を出すことなく、堅実な生活を送るのはもちろん、破産管財人の調査にはきちんと協力し、事実を正直に申告することが大切です。
なお、傾向としては、どうしても、初回の破産のケースに比べて、2回目以降の破産のケースの方が、管財人による免責不許可事由の調査及び免責に関する意見がシビアになります。
4.免責が得られなかった場合の対応
残念ながら、破産はしたけれども、免責許可決定が得られなかった場合は、どうすればよいのでしょうか。
その場合、まず、免責不許可決定を受けた日から1週間以内に、即時抗告の申立てをすることが考えられます。
ただし、これで決定が覆る可能性は、残念ながら高いとは言えません。
即時抗告をしてもなお免責不許可決定が覆らなかった場合には、個人再生や任意整理などの他の債務整理方法に切り替えることが考えられます。
もっとも、自己破産を検討するほどの多額の借金を抱えている場合、任意整理による解決は難しいでしょうから、現実的なところでは、借金の金額を大幅に減額できる個人再生手続を検討することになるかと思われます。
しかし、個人再生手続には、法律上、様々な利用条件があり、それらを全てクリアして、再生計画を認可して貰うためのハードルは、決して低くありません。
この個人再生も不可能となると、債務者の側で取れる対策は殆どなくなってしまいますので、何としても裁量免責が得られるように、最初からしっかりと対応をするべきでしょう。
5.先物取引やFXによる借金の整理は弁護士に相談を
今回は、先物取引やFXなどが原因で借金を作ってしまった場合の自己破産について解説しました。
泉総合法律事務所では、これまでに、ギャンブルが原因で借金を作ってしまった方のみならず、投資行為で借金を作ってしまった方からも多数ご相談を頂き、自己破産手続やその他の債務整理方法で解決してきた実績があります。
借金問題でお悩みの方は、まず一度当事務所にご相談下さい。債務整理のご相談は無料でお受けしておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせ下さい。
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