株式投資による借金を定年間近の方が個人再生手続で債務整理!
定年を間近に控え、老後資金を確保するために、資産運用として株式に投資をする方は、多くいます。
しかし、レバレッジをかけた信用取引の損失で、証券会社から高額請求をされてしまう悲劇は、珍しくありません。
また、当初の資産運用という目的を忘れ、ギャンブルのようにのめりこみ、サラ金や銀行のカードローン、果ては友人からの借金などをつぎ込んでしまう方もいます。
自己破産手続をすると、それまでの人生で築き上げてきた財産のほとんどを処分されることを覚悟しなければなりません。財産をできる限り持ち続けながら借金の負担を減らすには、個人再生手続という債務整理手続を利用するべきです。
個人再生手続ならば、裁判所に財産を処分されずに、借金を大幅に減額できる可能性があります。
ただし、個人再生手続では、処分されるはずだった財産以上の借金を返済しなければならないことから、専門家の助言に基づいた慎重な検討が不可欠なのです。
このコラムの目次
1.個人再生手続のメリット
自己破産手続に比べると、個人再生手続という債務整理手続になじみがない方もいるかもしれません。
個人再生手続は、裁判所を利用して、支払いきれない恐れのある借金のうち返済しなければならない金額を一部に限定し、その一部の借金を、原則3年(最長5年)で返済することで、残る借金が免除されるという債務整理手続です。
この返済の計画を、「再生計画」と呼びます。
個人再生手続で、株式等による借金を定年間近の方が債務整理するメリットには、主に以下のものが挙げられます。
(1) 裁判所による財産の処分が無い
株式投資で借金をされた方の中でも、信用取引による損失が相場の混乱により突如として降りかかってきたという方は、老後のために蓄えていた財産がまだ手付かずのままであることでしょう。
自己破産手続をすれば、手続が始まった時点で保有していた高額の財産は、裁判所により処分され、債権者に配当されてしまいます。
その財産の中には、退職金を受け取ることができる権利も含まれるため、退職金の4分の1から8分の1に当たる現金を裁判所に納めなければなりません。
ようやく住宅ローンを返済し終えたマイホームも、もちろん処分対象となります。ローンが残っているようであれば、住宅ローン債権者によって処分されます。
生命保険に高額の解約返戻金があれば、ほとんどの場合は解約されてしまいます。
個人再生手続では、少なくとも、裁判所による財産の処分を心配する必要は一切ありません。
「清算価値保障の原則」と言って、個人再生手続を利用しても、債権者に返済しなければならない借金の金額は、自己破産手続での配当額を下回ることができないため、裁判所による債務者財産の処分及び債権者への配当自体が制度に存在しないからです。
この「清算価値」については、大きなポイントとなりますので、後で詳しく説明します。
なお、マイホームに住宅ローンが残っていても、住宅資金特別条項という制度を用いれば、債権者による処分を回避できます。
(2) 株取引による借金でも問題なく手続が出来る
自己破産手続では、株の信用取引は、ギャンブルや浪費など、原則として借金が免除されない事情である「免責不許可事由」に該当する恐れがあります。
免責不許可事由があっても、実務上は、よほど悪質でない限り、裁判所の総合判断で救済されていますが、リスクがあることは間違いありません。
個人再生手続では、免責不許可事由のような規定はありませんから、上記のような心配は不要です。
もっとも、手続中にまた株に手を出せば、減額された借金をちゃんと返済できないのではないかと裁判所に疑われますので、絶対にやめましょう。
(3) 資格制限が無い
自己破産手続中は、警備員や保険外交員、金融業界に関する資格で働くことが制限されてしまいます。
転属や休職を勤務先に依頼する必要がありますから、自己破産がばれてしまいますし、だまっていても、自己破産したことが掲載される官報をチェックされていますので、隠し通すことは出来ず、最悪、解雇の恐れがあります。
個人再生手続では、資格制限は一切ありませんから、手続中でも安心して働き続けることが出来ます。
(4) 給料の差し押さえを止められる
債権者に給料を差し押さえられてしまっていても、個人再生手続の申立てをすれば、裁判所の判断により給料が債権者の手に渡らないようにすることが出来ます。
手続が始まれば、裁判所の判断を経ずとも、給料を差し押さえていた債権者は、給料を手に入れることが出来なくなります。
なお、給料振込先口座の銀行から借金をしていると、差し押さえ手続を経ずに口座を凍結されてしまいますので、振込先口座を変更しておいてください。
2.個人再生手続を成功させるためのポイント
定年間近に株式投資で借金を作ってしまった方は、個人再生手続が認められるために不可欠なポイントのうち、「再生計画の履行可能性」に、特に注意する必要があります。
再生計画上の返済額が大きくなりやすく、一方で、定年後は年金収入に頼ることになるため、返済に充てる収入が不足する恐れがあるためです。
特に、返済額については、貯蓄している財産の多さがネックとなります。
個人再生手続では、一般的には、借金総額に応じ定められた返済額の基準である「最低弁済額」か、自己破産での配当見込額である「清算価値」の、いずれかより高額な金額を、債権者に対して返済する必要があります。
定年間近で財産が多い方は、自己破産をすれば配当額も巨額になりますから、清算価値が問題となりやすいのです。
これから、まずは、清算価値に含まれる財産の中でも重要なものについて、次に、返済のための資金確保について説明します。
3.清算価値
ここで重要となるのは、マイホームと生命保険の解約返戻金、そして、退職金です。
(1) マイホーム
マイホームの清算価値は、その評価額から住宅ローンの金額を差し引いて算出されます。
住宅ローンの金額の方が大きければ、何千万円するマイホームでも、清算価値はゼロです。ですが、定年間近ともなれば、住宅ローンはほとんど残っていないか、完済済のことが多いでしょう。
高額なマイホームの価値が、ほとんどそのまま清算価値として計上されてしまいます。
しかし、あきらめてはいけません。
不動産の査定方法は、複数のものがあり、場合によっては数十パーセントの金額差が生じることもあります。
裁判所は、最も高額になりやすい、市場価格での査定を要求することが多いですが、市場価格も、査定する業者により大きくぶれます。無料査定する業者を巡り巡って、少しでも安い査定書を手に入れましょう。
ただし、裁判所によっては査定書の信頼性を厳しく判断するところもあり、近所や親戚のツテで査定を安くしてもらったことがばれれば、手続打ち切りの恐れがあります。弁護士の助言に従ってください。
なお、親族や友人に不動産登記の名義を変更してごまかそうとすれば、最悪、犯罪になります。
(2) 生命保険の解約返戻金
生命保険の解約返戻金も、長く保険料を支払っていることで、非常に高額となっていることでしょう。当然、清算価値に含まれます。
配偶者や子ども名義のものであっても、保険料を債務者が支払っていれば、清算価値に追加される恐れがあります。
契約者貸付制度を利用していた場合は、生命保険会社から受け取った金額が清算価値から差し引かれます。
手続直前の利用は違法行為を疑われますので控えてください。
手続直前に、契約者名義を変更することは、マイホームの登記名義の場合と同様、犯罪となるリスクがあるのでやめましょう。
(3) 退職金
自己破産手続での財産処分で簡単に触れましたが、退職金を将来受け取る権利も清算価値に含まれます。
確実に受け取れるとは限らないので、清算価値に計上されるのは、全額ではなく一部のみとなりますが、定年間近の方ですと、退職金見込額が非常に高額になるため、それでも無視できません。
また、退職時期が近い場合、清算価値となる割合が8分の1から4分の1に倍増する恐れもあります。各地の裁判所で運用が異なるため、弁護士に詳細を確認してください。
なお、再生計画の認可決定の時までに、現に退職金を受け取ってしまうと、現金や預貯金として、ほとんどが清算価値に計上されてしまいます。
退職金見込額を証明するには、勤務先から退職金見込額証明書を取得することが最も手っ取り早いのですが、勤務先に個人再生をすることが発覚する恐れがあります。
就業規則に退職金規定があれば、それをもとに計算することも可能ですから、勤務先に知られたくないという方は、弁護士に相談してみてください。
4.偏頗弁済による清算価値の増加
偏頗弁済とは、借金全額が支払えなくなったにもかかわらず、特定の債権者への借金だけを優先的に返済することをいいます。
偏頗弁済は、債権者を平等に取り扱わなければならないという個人再生手続の重要なルール(「債権者平等の原則」と呼ばれています)に反する違法行為であり、偏頗弁済相当額の分だけ、清算価値が上昇するという制裁が科せられます。
投資の損失を穴埋めするために、友人や親族、同僚から借金をしている方が、偏頗弁済をしてしまうケースは、実務上非常に多い問題です。
苦しいでしょうが、誠意をもって謝るにとどまり、返済を要求されても、弁護士に止められていると伝えて、偏頗弁済をしないようにしてください。
5.再生計画上の返済のための資金確保
最近では、定年後の再雇用も盛んですが、一般的には収入が著しく下がってしまいます。年金も多くはありません。
老後資産を保有していると清算価値に基づく返済額が大きくなってしまいやすいため、出来うる限り、返済のための資金を確保する方法を探しましょう。
(1) 債務者本人の収入を増やす
まずは、年金のみならず、定年後の再雇用を勤務先に依頼し、パートやアルバイトを利用して自分の収入を増やしましょう。
わずかな金額でも、数年にわたる再生計画期間の間に積み重ねていくことで、履行可能性を上げることができます。
(2) 債務者の財産の取り崩し
財産を守るために個人再生手続をしたのに…と思う方も多いでしょうが、背に腹は代えられません。
全財産を裁判所や債権者に強制的に処分されるよりは、一部の財産を自分の判断で処分したほうがましです。預貯金は当然ですが、生命保険の解約返戻金も検討の余地があります。
ただし、高齢だと生命保険を再契約することは困難ですし、また、傷病保険などもセットで契約されていることもあるでしょうから、慎重に検討してください。
再生計画期間中に退職金が手に入る場合や、早期退職制度が利用できる場合には、退職金を積極的に利用しましょう。
先ほどから説明しています通り、退職金が清算価値となる割合は、認可決定前に受け取ってしまわない限り、最大でも4分の1です。
例えば、時価1500万円のマイホームと2000万円の退職金が清算価値の対象となったとしても、退職金のうち清算価値に計上されるのは、最大でも、2000万円の4分の1で500万円ですから、清算価値は合計2000万円です。
退職金で一気に全額支払うことすら可能になります。
(3) 親族からの援助
自力では限界があるという場合には、家族からの援助も考えましょう。
家族が援助してくれるか、そもそも援助できる経済的余裕があるか、援助が期間中継続可能かについて、裁判所は具体的な事情をもとにしっかりと判断します。
弁護士と協力して、家族からの支援が現実的に見込めることを、家族の収入や資産などの証明書をはじめとした十分な資料で説得的に主張する必要があります。
例えば、同居している家族の収入や家計への援助は、債務者の収入と併せて履行可能性の判断に組み込みやすい傾向にあります。
しかし、子どもが結婚して独立しており、まして、孫が生まれている場合には、経済的に余裕がなく、あったとしても子や孫の将来のための貯蓄が必要ですから、裁判所に子供からの援助を含めて履行可能性を判断してもらうことは、難しくなります。
(4) 再生計画の期間は原則として3年
例外的に、「特別な事情」があると裁判所が認めた場合には、5年まで期間を延長できる可能性があります。
具体的には、将来安定した収入が見込め、期間延長により、1回あたりの返済額が減少すれば、返済継続が可能といえるかが問われます。
安定しているものの低額な収入である年金生活を間近に控え、清算価値により再生計画上の返済額が高額になっている方にとっては、一般的な場合よりも、認められる余地は大きいでしょう。
また、再生計画に基づく返済中に、債務者や家族の病気やケガ、失職など、債務者の責任によらないことが原因で、返済が困難になった場合には、もとの返済期間を最長2年まで延長できる可能性もあります。
いずれにせよ、支払い1回あたりの返済額が減少するだけで、返済総額は減少しませんし、期間延長が必ず認められるとは限りません。
あまり期待せず、とにもかくにも、返済に充てるお金の確保に全力を注ぎましょう。
6.定年間近に株式投資で作った債務整理は弁護士に相談を
株式投資で作ってしまった莫大な借金の前に、これまでの人生で苦しみ、積み上げてきたものを自己破産で失わなければならないのかと絶望している方にとって、個人再生手続は、借金問題の解決と財産の維持を両立させることのできる、非常に重要な債務整理の手段です。
しかし、財産を守るためには、清算価値保障の原則により財産相当額を債権者に返済しなければなりません。
再生計画の履行可能性を裁判所に認めてもらうには、弁護士とともに、あらゆる手を尽くして返済原資を積み上げ、返済の確実性を高めていくことが欠かせません。
泉総合法律事務所では、個人再生により借金問題を解決した実績が多数ございます。是非ともお気軽にご相談ください。
-
2020年11月25日債務整理 破産の債権者申立てとは?|自己破産と何が違うのか
-
2019年8月21日債務整理 債務整理の基礎知識|個人再生手続の基本的な流れ
-
2019年8月21日債務整理 個人再生による家族・子どもへの影響と注意点